父が後半に取り組んでいた仕事として、メロンの蔓や葉を自ら燃やして作った灰を精製したメロン灰による釉薬づくりがあります。植物の灰を釉薬に使う灰釉でもメロンを使う方は少ないと思います。父がメロンを使うことになったきっかけは、東京で個展をした時に、窯のある住所が北海道夕張郡長沼町ということで、夕張ならメロンをやってみたら?という提案だったとのこと。
同じ夕張郡栗山町の農家さんの協力で、厳密には夕張メロンではないもののキングメルティという夕張メロンと同じ品種のメロンが収穫された後、蔓と葉を乾燥させて、専用の炉で燃やすことで得た灰です。収穫後の作業で、ビニールハウスの中で栽培されたものを集めるため、北海道とはいえ、とても暑い中での作業でした。
そのメロン灰を父は陶器と磁器の両方に使い、磁器の方は「メロン灰青白磁」と名付けました。偶然にも、その色合いが薄く緑がかった色で、メロンのイメージと一致することから、「メロンだからメロンのような色になるのですか?」などと聞かれることもありました。これに関しては、メロンの表面の色が高温で焼いた陶磁器の色にそのまま現れることはなく、土と釉薬に含まれる元素の組合せや焼成温度や焼成方法(酸化焼成か還元焼成)により決まります。
天草陶石にメロン灰の釉薬を掛けた「メロン灰青白磁」は、後半の父の仕事の主軸となっていきました。今、私が使っているりんご灰釉は、父がメロンの灰を使うようになる前に使っていたものです。ゴールデンウィークには、近所の農家さんにトラックを借りて、冬の間にりんご農家さんが剪定したりんごの枝を薪ストーブで燃やした後の灰をもらうため、仁木町や余市町のりんご農園を何軒も回って灰をいただきました。子どもの頃にどこかに遊びに連れて行ってもらった記憶はなく、このゴールデンウィークに灰をもらいにトラックで遠出をする、というのがちょっとした楽しみでもありました。
そんな灰は、集められ、質のよいものを水簸し、釉薬の原料として保管できるように処理していました。
父が病気で作陶できなくなった後、器づくりを始めるきっかけとなったのは、これらの灰の存在でした。
とはいえ、まずはりんご灰を安定して使うことができるようになること。そして、もうすぐ平均余命から人生の半分を迎えようという先日、父からメロン灰の使用許可が出た。いずれはやりたいと思っていたので、驚きの一瞬。そう簡単にはいかないだろうけれど、楽しみです。